sakura

願わくば、永遠のロマンティックを

恋人は心に住んでいる

23/10/3

 

秋が訪れた時って、ヒヤッとした寒さが鼻を通り抜けて、心の空洞まで風が滲み入る感じがする。毎年同じ冷たさを感じているのに、なぜかいつも寂しい感情があらわれる。

 

寒くなり始める時期、今までは失恋を経験する季節だった。

その度私は、沢山の秋の景色を敏感に感じ取ることができて、それらを喪失感と美しさを混ぜた、ピリッと尖った空気と記憶した。

その影響から、この季節の匂いは悲しいものとなっていた。


でもこの間の秋は、それらを寂しい匂いだと感じなかった。

ただ適度な質感の空気に当たりながら外を歩いている感覚。

それはもしかしたら、恋人の存在が影響していたかもしれない。

心の中に恋人が住んでいて、2人分の想いが混在する。心に2人分の重量があるおかげなのか、皮膚から感じる空気のテクスチャーに鈍感になっていた。

(空気にテクスチャーなんかないけど、でも本当に、そのように空気を捉えてる)


恋人の温かい存在が介在することで、乾いた空気が心地よかった。

 

次の秋はどんな匂いがするだろう。

思い出すのは彼がいない時

恋人の暮らす街へ訪れることが好き。

今日は恋人の愛おしいところに沢山触れることのできた日だった。

好きなところなんて言い出したらキリがないし、最適な言葉であらわすことがまだできない気がして、友達に聞かれてもはぐらかしてしまう。

簡単でありふれた言葉で彼を語りたくない。

溢れた人間の中のただ1人なのかもしれないが、それでも私にとっては世界で1番安心することのできる、かけがえない恋人なのだ。

共に歩んでいきたいと思えるパートナーなのだ。

 


彼は寝ている時、唇をつんと尖らせる。

体からほのかに甘い匂いがする彼は今、寝顔をこちらにみせて隣ですやすやと寝ている。

男性から甘い体臭がする。私はそんな男性を見るのが初めてだった。体の内から溢れるその女子力、私にも分けてくれないか。

 


厚みのある胸と太ももとは裏腹に、きゅっと引き締まった二の腕と腰。

二の腕の筋肉のなめらかな曲線。

笑うと垂れる目尻。

申し分なくスッと佇む鼻。柔らかい唇。

あの頃と違う体をしているが、やっぱり私の好きな顔には間違いなく変わらない。

数年前は遠く感じていた、誰かの物でしかなかったこの身体が、今は私の存在に安心するように隣で眠っている。

 


柔軟に優しく私のことを包み込んでくれる、ふかいふかい懐。

柔らかいのにどっしりと肝が据わっている。柔らかさと土台の固さの両方を持ち合わす人はなかなかいない。

どうしたらそんな姿勢で生きることができるんだ。

私はいつも隣で彼のその姿を見るたび、そして包んでくれるたび、一歩離れたところから傍観する。眩しくて、つい視線を落としそうになる。

私は彼に、尊敬と憧れを抱いている。

手の行方

好きな人とご飯に行った。

計画していたジャブを全て打ち込んでスッキリして、幸せな夜だった。

帰って急いでお風呂に入って寝につこうとしたけれど、彼のことが離れなかった。

心は爽やかな気分でもう自分しかいないのに、彼の声がずっと頭に響いていた。

その後夢にも彼が出てきた。


恵比寿の小洒落た居酒屋でハイボールとミルクティーのお酒。

話に夢中でご飯は小皿3つだけだった。

私たちの関係を怪しんでいるのか、はたまた私を心配しているのかチラチラ見てくるシティーボーイ店員。

もう周りなんてどうでもよくて、彼と私だけがわかっていればいいと思った。

死にたいと思ったことがある話。

自殺の仕方を決めたことがある話。

人生における結婚・子供の有無の話。

”おばさん”になった時のパートナーの話。

職場の派遣の人に次の日話したら、「それもう付き合ってる人達の会話じゃん」と言われた。

店を出て恵比寿から新宿まで歩いた。

私はいつ手を繋ごうかばかり考えていた。

結果、北参道あたりで彼の服のポケットに手をいれることに成功したが、彼は両腕を組んでいた。

ほとんど失敗に終わったがもうそれはそれでよかった。


寝る前、彼と歩いた明治通りの明るい街灯が頭から離れなかった。

次の日、彼から借りた本を読みながら昨日の思い出にふけた。

 


彼の好きなところはいくらでも出せるけど、今言葉にしてしまうと私の中の彼が濃くなってしまうから、今日はやめとこうかな

24時間帰省

'23/09/24

 

仕事が終わる1時間前に思い立って、急遽実家へ帰省してきた。
ここ最近の東京は少しずつ秋がやってきて、すべて微かにではあるが、陽が和らいだり夜は涼しい風が吹いている。
秋は少し寂しさを感じてしまう性で、夏も大好きなもんだから余計寂しくて、最近は退屈していた。

地元である東北は東京よりも朝晩が5度くらい気温が低くて、朝はハーフパンツではもう寒かった。
9月に、寒いと感じたのだ。
東京ではおそらく寒いなんて冷房くらいしか感じられなかったのに。
駅に向かう前におじいちゃんが握ってくれた炊き込みご飯を取りにいった早朝、「寒いよ〜」と声に出して、その瞬間にハッと「ああ、私は18年間ほとんどずっと寒い気候の土地で過ごしていたんだったな」と思い出した。
夏なんてあっという間で、秋なんて本当に無くて。秋晴れが進んでいて稲穂がオレンジ色に染まっていて。
生まれてから旅立つまでの地元で過ごしたいろんな気持ちがぶわあっと溢れてきて、ずいぶん遠いところまできてしまったんだなと、どこか他人事のように自分を振り返った。
一昨日まではこの涼しさとビルに掛かったオレンジ色の陽に寂しさを感じていたのに、たった1日実家へ帰っただけで、東京にいても地元にいるような、家族が過ごすあの家からただお出掛けにきているだけのような、私の大切なものが身近に感じられる、サラサラでホッとするあの心地いい気持ちに変わっていた。

足取りが軽い。
上を向いて歩ける。
心なしか目がハッキリ開いている気がする。
大好きな家族、今回もあたたかく迎えてくれてありがとう。

6年前の初恋の匂い

'23/02/23

深夜にゴミを捨てに行ったら、春の夜の匂いがした。

この匂いは一生特別なのだと思う。
高校生の時に付き合っていた10個歳上の彼との時間は、全てが初めてでドキドキしていて、飲み込まれそうだった。
おそらくあれが私の初恋に値するものだろう。

付き合いたての時、夜に家をこっそり抜け出して朝までデートすることが多かった。
深夜にリビングのドアから抜け出して外へ出る時。
彼の車で遠くへ行く時。
バイト先で深夜までたむろい、やっと外へ出た時。
全てにこっそり春の匂いがしていて、
本当に、言葉通り、空気に飲み込まれそうだった。

そういえば私が夏を好きになったのは彼と付き合っている時だったな。

私の初恋は、毎年こっそりと現れる、生温かい春の夜の匂い。

 

きっとこれから季節が移り変わって、彼の素敵なところがもっと見えてくるだろう。
惹かれるたびに彼を強く想って、
強く想うたびにもうこの先一生彼と恋人として触れ合うことができない現実を実感させられるのだろう。
そんなことを想像すると傷が膨大に膨れ上がって、居ても立っても居られなくなる。
きっとかなり辛いことが瞼のすぐ先で想像できる。
私にそれをやり過ごすことはできるのだろうか。

この間、春になって彼の装いは軽装になって、首の出るVネックのカーディガンを羽織っていた。
顔まわりがスッキリした印象に見えて、彼のしっかりと線のある華奢な体が覗いていた。
たったそれだけの部分から彼の知性的な色気が溢れていて、あの人は確かに春を纏っていた。

夏はきっと血管が浮かび上がっている、キュッと引き締まった腕が露わになり、
対照的に直角に伸びた広い肩幅に目がいき、
空気を含んだコットンのTシャツから微かに彼の身体の薄さが垣間見え、
気怠げに歩く猫背の背中と、襟ぐりから襟足にかけての骨張った丸い背骨を見て私はうっとりするだろう。
そしてその度に、気持ちの高揚を抑えようと必死になって、自分の気持ちと現実とのギャップに悲しくなるだろう。

まだその光景を目の前にしたわけでもないのにここまで飄々と文章にできる自分の妄想力の高さと着眼点に
十分気持ち悪さを感じるが、それほど彼の体は美しいのだ。